ジョン・ポリス・スプラッターズクラブ

城戸が2022年に観たスプラッター映画

BECKY ベッキー(2020)

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とりあえず敵はネオナチにしておけばよいとでも思っているのではなかろうか、というくらいネオナチである必要のないネオナチ囚人グループが山奥の別荘を占拠、そこにいた家族を人質に取るが、たまたまパパとケンカをして森に飛び出していた13歳の少女ベッキーは難を逃れる。悪人たちの要求はベッキーの持つカギであり、トランシーバーでそれを渡すよう彼女を説得するが…という、まさに私のためのプロット、基本的に、こういうのが見たくて映画を見ているようなもの。だから嬉しかった。

 

母親を亡くし心を閉ざしてしまった少女と、自らの負った傷を癒そうと別の女性との再婚を決意する父親とのドラマって普通にたまんないし、その再婚相手の女性の聡明さというのも素晴らしい。父親と、初対面の再婚相手とその息子が人質に取られているという状況設定も面白いっていうか、涙もろい私にとってはベッキーがこの先頑張れば頑張るほどその行動の先にいる彼らの顔が思い浮かばれて涙が出てしまうという、非常に直線的にエモーショナルに突っ走る構成(ただただ、私にとって)であるわけです。

 

正直、ホラー映画というか、こういった立てこもりスリラー亜種、さらに2020年製作としては、アイデア不足というか、例えばほとんど同じような死に方が2回出てくるというのはさすがに残念だったし、ラストシーンも、まあ、もうちょっと現代的なモンがあってもよかったのではないかとも思うけども、”可憐な少女が殺人!?”といったような下世話なポップさでなくわりあいシリアスに描き切っているのは個人的に好印象であるし、ケヴィン・ジェームズ(がネオナチ役ってのもスゴイが)の眼球のシーンは結構面白かったので、オススメです。いや、でもマジで、もうちょっと活劇に魅力があれば、といった感じですけどね。まあ13歳の少女なんで仕方がないですが

 

 

罰ゲーム(2006)

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バンに乗ってキャンプ場に向かう若者たちの車内でのバカ騒ぎから、道案内を頼んだ怪しげなジジイに「そこには行くな」と警告を受けるという一体何度見たか分からないオープニングは凡庸そのもので、”双子”がキーワードとなりそうなのは少しばかり個性的かも知らんがなんで俺はまたこんなものを観なきゃいけないんだよ、休日やぞ、雨やぞと被害者意識全開にとても地元の親には見せられないような行儀の悪い体勢で鑑賞していると、散り散りになった5人の若者の行動を、ジョギングをしている1人がまるで点を線で結ぶように目撃していくというなかなか面白い語り方に「おや」となった。

 

少し姿勢を直したところで殺戮が始まり、殺人鬼がツルハシを持って被害者を追っかけまわすのを眺めていると、物理的な殺害や森に仕掛けられた罠で次々に血祭りにあげられていく様に徐々に私のボルテージも上がっていき、小型犬をグチャッと踏みつぶしたところで「これはすごいぞ」と勃起を果たしたんである。

 

ツルハシを連射するという仕組みのまったく分からない装置の登場が本作のハイライトであろうが、その他の細かなアイデアがずいぶんと鮮やかに決まっていくので楽しい。死体の口からウィーンとCDが出てきたり、木に吊るされた犠牲者が振り子の要領で走ってる車の前に投げ出されたり、大量の大麻をいっぺんに吸わせたあとみぞおちを殴って大量の煙を吐き出させたりする。こんなもの眼福以外の何物でもない。

 

死体小屋だって出てくるし、”双子”というテーマに即したあの死に方も喝采モンだし、クライマックスはまたしても『悪魔のいけにえ』そのものでありながら、さらにインモラルなアイデアが加えられているうえ、ある人物の死亡シーンではうかつにも涙ぐんでしまった。いや、中盤以降はホント褒めるとこしかない。ファイナルガールの勇姿もたまものである。サイコーした

 

最初のクレジットで「同姓同名だろう」と思っていたブレイク・ライヴリーも終盤でしっかり登場するし、クリスピン・グローヴァー(ジョージ・マクフライ!)もずいぶんと出ずっぱりだったので嬉しかったですわ

 

 



ストライク・バック(2007)

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田舎に行ったらヤバい一家に捕まってヒドい目に遭わされるという悪魔のいけにえプロットはこれまでに散々と量産されてきて、当然、駄作もそれなりに生み出されてきたわけですが、私が「出た、悪魔のいけにえ」と駅前で知り合いを指さすかのようにプロットの再利用を目の当たりにさせられてきた凡百のB級ホラーたちに、やはり傑作である『悪魔のいけにえ』には敵わないとしても、低予算なりに、一体どこに優れた部分があるだろう、と注目するのはいつだって暴力描写、残酷描写だったわけです。

 

どうせ『悪魔のいけにえ』には敵わないのだから、同じプロットを使うのならばせめて腕が飛んだり顔面がつぶれたりするのを見せてくりと言わんばかりにあらゆるディテールをすっ飛ばして血みどろシーンにばかり目を見張っていたんですから私も相当に不誠実ですが、そもそも人生というのは限られているのであって、死ぬまでに一体いくつの顔面破壊が見られるのだろう、という実に切実なまなざしでこの『ストライク・バック』も眺めていたのですが

 

海沿いを走る車を遠くから撮ったり近くから撮ったりを繰り返すオープニングに「え?」と思ったりはしたものの、都会でそれなりの暮らしをしているように見える夫婦が船遊びに出て、遭難して、たまたま流れ着いた島で助けを求めようとするも電話がない、仕方なく鍵の開いていた民家に侵入し、電話を拝借しようとするが、不運にも家の主が返ってきてしまい…という幕開けのテンポの良さ、悪役の造形の良さ、アイデア溢れる残酷描写の良さ、ここで言ってしまいますが本作は大傑作でして、そして何より、中盤でヒロインがDIYする武器のすさまじさといったら!

 

イヤ~な空気感の演出のうまさや緩急のうまさなど、褒めるポイントはいくらでもあるんですが、やはりホラーファンとしてはヒロインが武器をDIYするシーンがあると本当にうれしいので、その話しかできなくなってしまいます。かといってネタバレするわけにもいかないので、一体どこでレンタルできるのか分からない(私は宅配レンタルを利用しました)本作を見て、ヒロインが納屋で作る武器の造形と、その炸裂を是非観てほしいです。ちょっと、泣いてしまうくらい素晴らしいです。例えば納屋でなぜかバズーカが完成してしまうといったような荒唐無稽さでなく、あくまで現実に即したうえで、最大限に魅せてくれる。そう、本作の実に巧妙な点はリアリティラインの操作であって、中盤の伝説的DIYすらも助走として機能する終盤の一大活劇の気持ちよさは、筆舌に尽くしがたいものがあります。どうして本作が眠らされているのか理解できません。

 

チャイルド・マスター(2008)

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アメリカン・ニューシネマ風の殺人ロードムービー。頭のおかしい姉、喋ることのできない弟と、マジでかわいくない腹話術人形が繰り広げる珍道中。これはもう自信を持って傑作であると断定したい。どう考えてもこんな映画に何かを期待するワケがないし、この監督マーク・ジョーンズはかの『レプリコーン』の監督として知られる男であるが、そっちがまったく合わなかった私からすればなおさらであるが、強いのをくらった。


腹話術師として成功を掴むためハリウッドにやってきた女性が幼い姉弟を残してヘロイン中毒で死去、残された姉弟と人形の3人で腹話術師として稼ぐため、盗んだ赤色のマッスルカーでラスベガスを目指すという、いかにもニューシネマ的というかヌーヴェルバーグ的というかテキサス的な幕開けながら、それはすぐに戯れの模倣へと成り果て、ポップな音楽に乗せてただ邪魔者を殺しつつヒロインと人形の掛け合いが繰り広げられるという、なるほどこれは何のことはない、グランド・セフト・オートなのである。

 

本作が小学生のプレイするグランド・セフト・オートそのものなのであると分かったところで、ならば物語なぞに一切期待できるわけがないのだが、しかしアイデアに溢れた展開(特に終盤、警官の〇〇を使って〇〇〇をするシーンは感動した)やギャグセンの高さに、人形の吹っ飛び方、ニューシネマ的幕開けをすぐに捨て去る(時折スコセッシみたいなイメージが挿入されたりするが)ナメた態度に至るまですべて最高。画面内で役者が動きまくるのも素晴らしい。ヒロインが車をケツから順に5回くらい蹴り入れていくトコとかマジで良い。強盗に入った酒場で、ステージで歌ってたラッパーに「音楽を聴かせて」と銃を向けるヒロインに「仕方ねえな、いいぜ」つって歌い始めるラッパーのシーンとかちょっと泣きそうになるくらい。起こってること全部好き。

 

「何の声だ?後ろに何が乗ってる?」

「うちの飼い犬です。名前はタイタニック。一度沈めたことがあるからです」

 

というかヒロインがあまりに魅力的すぎて、これマーク・ジョーンズ自身が彼女に恋をしているんではないか、物語がほとんど破綻してるのは、彼女を目の当たりにしたマーク・ジョーンズが彼女をもっと撮りたいがために現場で脚本を書き換えまくったからではないか…とかそんなことまで大袈裟に考えてしまうくらいの、もっといえば、事故った車から白い煙がシューって出てるってただそれだけのシーンでも、それが映画にとってやたらに神聖な煙に見えてしまうくらいの魔力を持った映画である。俺が褒めすぎてるのは分かってるし、何ならわざと過剰に褒めている部分だってあるけども、とにかく近くのツタヤにコレが並んでたって人は迷わず借りて観て一緒に飲み行ってネットフリックスの悪口でも言いましょう

 

シャドウ

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死刑に処された凶悪連続殺人鬼、ロン毛トニー・トッドが、よく分からないけど蘇って、よく分からないが人を殺し、よく分からないが最終的にゾンビパニックとなる映画。スラッシャーもやりたいし、ゾンビもやりたいし、アクションもやりたいぜ、とジャンルを女囚モノに絞ったのが功を奏したのか、なんだかずっと面白く観れた。


やっぱどんなホラー映画だって、ブレインデッドよろしく、クライマックスには派手に血糊を使って景気の良いスプラッターを見せてほしいもんですが、本作はそれが、荒唐無稽さも相まってバッチリなので、それはすごく楽しいというか、本当のところを言えばそんなことすらどうでもよくて、出演していると知らずにミスティ・マンダを目の当たりにしたことが、私がこの映画を通して勝利を得た部分であると言える。

 

ラバーボーイ(2014)

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女性たちのシェアハウスを24時間リアルタイムで配信するポルノサイト『ガールハウス』の熱心なオタク『LoverBoy』が嫉妬をこじらせて彼女らを殺しに行ってしまう…という、相当なオジサンしか考えないようなお話。


さらにそのシリアルオタクは幼少期、女子から性的にからかわれたというトラウマがある太ったブサイク。部屋は薄暗く、ダッチワイフに話しかけたり、女性たちの写真を切り抜いて自分との2ショットを作ったり、等、もう、ウンザリするようなオタク描写、サイコパス描写で、じんましんが出てしまいました。

前述のポルノサイト『ガールハウス』以外にアイデアはひとつも無し、せっかく舞台がユニークなのだから本作ならでは演出のひとつくらいあってもいいと思うんだけどマジでひとつもない上に尺も100分越えってのはちょっと困るし、そもそも、ポルノサイトに警鐘を鳴らすようなオープニングにしといて内容は「勘違いしたオタクに殺される」って、それってポルノで起こることじゃなくてインターネットで起こることなんじゃないのか、とか色々言いたいことがあるわけですが、私の大好きなスプラッターアクション『モンスターズ・ハンター』のジョン・ノーツ、トレヴァー・マシューズの面目躍如といった暴力描写、グロ描写は楽しかったので大丈夫です。

ホムンクルス/新種誕生

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『パペット・マスター』シリーズなんかでも監督として知られ、近年はB級ホラーを量産しまくっているプロデューサー、チャールズ・バンドによる1997年のホラー・コメディ。結局こいつらは何なんだよ、と言わずにはいられない謎の生命体4体と、一緒に屋敷に閉じ込められた6人の人間との戦いを描く。

 

謎の生命体、いわばクリーチャーと人間の戦い、という単純な図式ではなく、生物標本の収集家同士がライバルより先にクリーチャーを手に入れようと内輪で揉めていたり、裸の上に革ジャンを羽織っているにも関わらずどれだけ動いても乳首が見えないヒロインの乳首の見えなさなど、ユニークな点はあるものの、肝心の殺人劇が始まってからは死ぬほど単調でグロ描写も皆無。クリーチャーの造形や動きは大変すばらしかったので、その他はもう息切れしながら作っているんだろうとさえ考えれば、それなりにアイデアはあるし、そもそも私はあのクリーチャーたちを「かわいい」と思ってしまっているから、「かわいい」と思わせた映画の勝ちというか、そんなクリーチャーの魅力や、もはや相手の剣に自分の剣をぶつけるという謎の競技に変わり果てている冗談みたいなチャンバラも含め、観ている最中の多幸感というものはひとしおでしたね。